裁量労働制 首相、異常データで板挟み 支持率、求心力を懸念

毎日新聞2018年2月27日 東京朝刊

https://mainichi.jp/articles/20180227/ddm/002/010/088000c
異常データの撤回を拒否する政府の「防衛線」(省略)
 政府は26日の衆院予算委員会で、裁量労働制に関する厚生労働省の調査データを撤回しないと強調した。撤回して再調査に追い込まれた場合、このデータに基づく働き方改革関連法案の見直しは必至で、今国会成立も絶望的。安倍晋三首相の求心力低下が避けられないからだ。ただ「過労死など命に関わる法律」(野党)だけに、データの異常値が増え続ける中で法案提出を強行すれば、今度は支持率低下につながりかねず、政権は対応に苦慮している。
 「合理的ではない」「違和感がある」。加藤勝信厚労相は予算委で、野党議員から新たに指摘された数値の異常さを認めざるを得なかった。立憲民主党の長妻昭代表代行は「データの信頼性が失われた」と追及したが、首相と加藤氏は「まさに今精査している」と予防線を張り続け、問題になっている「2013年度労働時間等総合実態調査」の調査データは撤回しない、とした。

撤回すれば野党が調査をやり直すよう迫るのは必至で、働き方改革法案を「妥当」と結論づけた厚労省の審議会まで議論が逆戻りしかねない。首相は今国会を「働き方改革国会」と位置づけており、法案の成否は、9月の自民党総裁選を控えた首相の求心力に影響する。首相官邸幹部は「再調査はしない」と明言した。

また、裁量労働と一般労働の不適切なデータ比較を「誰が指示したのか調べるべきだ」とただした長妻氏に対し、加藤氏は「担当課が出してきた。それ以上でもそれ以下でもない」と、木で鼻をくくったような答弁を展開した。首相がこのデータ比較に基づく国会答弁を撤回しただけに、加藤氏のはぐらかしは「政権に都合のいいデータ作成を指示したのは誰か」という追及を封じるためだったが、野党は「完全な開き直りだ」とかえって反発した。

一方、今回の異常データ問題は、働き方改革法案に盛り込まれる「裁量労働制の対象拡大」がクローズアップされる結果を招いている。毎日新聞の世論調査では対象拡大への反対意見が57%を占め、賛成の18%を大きく上回った。このまま法案を提出すれば反対が一層広がりかねない状況だ。

このため、首相は26日の予算委で、法案の提出時期について「与党の審査があるので確定的なことは言えない。党が決めることだ」と明言を避けた。加藤氏もこの日夜に東京都内で予定していた自身の政治資金パーティーを延期するなど、政権は細心の対応を余儀なくされている。【野口武則、遠藤修平】

予算案、衆院通過あす以降 与党、採決先送り

裁量労働制に関する厚生労働省の異常データ問題は、2018年度予算案の衆院通過を巡る与野党攻防にも影響を与えた。野党6党の反発を受け、与党は当初目指していた27日中の衆院通過を断念した。

与野党は26日夜から27日未明にかけて断続的に5回の幹事長・書記局長会談を開催。野党は、裁量労働制に関する調査やり直しや、働き方改革関連法案の国会提出断念を求め、明確な回答がなければ日程協議に応じないと表明。協議は折り合わず、与党は27日中は衆院予算委員会や本会議での採決を見送ると野党に伝えた。

衆院通過は28日以降にずれ込む。会談後、自民党の森山裕国対委員長は27日の採決について記者団に「非常に難しくなった」と語った。

立憲民主党の福山哲郎幹事長は「整わずだ。(27日)午前0時を越えたので予算委理事会の再開はない。二階(俊博・自民党)幹事長が『もう(本会議は27日中に)開けないな』と言った」と語った。

自民、公明両党は当初、26日の衆院予算委員会の理事会で、安倍晋三首相と全閣僚が出席した締めくくり総括質疑を27日に行って採決することを提案。同日中に衆院本会議で可決し、参院に送付する構えだった。野党は先週末に再調査や法案提出断念を要求。これに関し森山氏が26日に立憲民主党の辻元清美国対委員長に回答を伝えたが、再調査には「引き続き国民に対する説明責任を果たすよう政府に申し入れる」とするなどの内容だった。事実上のゼロ回答で、野党は「無責任な回答だ」(立憲の枝野幸男代表)と猛反発していた。

与野党幹事長会談の合間の26日夜には、与党側の連絡不足で衆院財務金融委員会を開こうとする動きが生じ、野党側がさらに反発を強める場面もあった。【村尾哲、真野敏幸】

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