2020年「正社員の年収激減」の恐怖 (12/20)

2020年「正社員の年収激減」の恐怖 賃下げの意外なターゲットとは
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2019/12/20(金) 9:00配信 ITmedia ビジネスオンライン

2020年「正社員の年収激減」の恐怖 賃下げの意外なターゲットとは

【画像】来年、正社員に「年収激減」の危機

 2020年以降、正社員サラリーマンの懐がかなり厳しくなりそうだ。同一労働同一賃金の導入で各種手当が削減される可能性が高まっていることに加え、年収850万円以上の人については実質増税となる。生活の切り詰めには限界があるので、副業など収入の複線化がますます重要となるだろう。

【画像】「脅威」になる? 同一労働同一賃金のガイドライン

同一労働同一賃金が正社員に打撃
来年から年収が減少する正社員サラリーマンが増加すると予想されるのは、18年6月に成立した働き方改革関連法が20年4月から本格的に施行されるからである。働き方改革関連法には、残業規制や同一労働同一賃金といった内容が盛り込まれていたが、企業活動への影響が大きいことから猶予期間が設けられていた。

 残業規制については大企業が19年4月から対象となっており、すでに残業代が激減した人が続出しているが、20年4月からはいよいよ中小企業も規制の対象になる。中小企業の社員で、残業代込みで年収を維持していた人は、生活が苦しくなるかもしれない。

 残業規制よりも企業に対する影響が大きいといわれているのが、同一労働同一賃金である。これは同じ仕事をしている社員については、正社員と非正規社員との間で原則として待遇格差を設けてはいけないというもので、これがいよいよ20年4月から施行となる(中小企業については21年4月から)。

 日本では正社員と非正規社員との間に極めて大きな賃金格差が存在していた。正社員と非正規社員が異なる種類の労働をしているのであればまったく問題ないが、現実は違う。

 事実上の人員整理で、正社員だった人が仕事の内容や責任が変わらないまま非正規に移行されられたケースや、正社員の採用をストップし、同じ仕事を非正規で募集するケースが増えている。このような場合、同じオフィス内で正社員と非正規社員が全く同じ仕事をしているにもかかわらず、待遇に圧倒的な差がつくことになる。

 同一労働同一賃金が導入されれば、こうした待遇格差は違法となるので、企業はこれを是正する措置の実施に迫られる。両者の格差を是正する方法は、非正規社員の賃金を上げるか、正社員の賃金を下げるしか方法はなく、現実にはその両方が実施されるだろう。

賃下げターゲットは「正社員の各種手当」
例えば派遣社員の場合、20年4月以降は、段階的に昇給となる可能性が高い(労使協定方式の場合)。厚労省が作成した目安では、派遣後、1年が経過すると賃金が約16%、2年後には27%、3年後には32%上昇する。例えば時給が1179円だったデザイナーは1年後には1368円に、2年後には1496円に、3年後には1556円になるイメージだ。

 同じ派遣社員でもスキルはそれぞれであり、一律に期間で昇給というやり方には異論も出ているが、継続派遣された社員の賃金が上がるのはほぼ間違いないだろう。

 非正規社員の賃金が上がるのは非常によいことだが、現実はそれだけでは済まない可能性が高い。企業は総人件費の上昇を強く警戒しており、非正規社員の賃金が増えた分は、正社員の賃下げで対応しようとする企業が出てくるからだ。

 賃下げといっても、基本給を減らすわけにはいかないので、最初のターゲットとなるのは各種手当てだろう。正社員には、さまざまな手当が支給されており、基本給ではなく手当てによって相応の年収が確保されているというのが現実である。

 手当には、役職手当、住宅手当、地域手当、通勤手当などさまざまなものがあるが、時代や環境の変化で必ずしも必要なくなっているものもある。20年4月以降は、こうした手当が見直しの対象となるだろう。手当によって年収が確保されていた人は、これが削減されてしまうと大幅な年収ダウンとなってしまう。

 手当というのは、あくまで特殊事情がある社員のためのものだが、なぜここまで手当が肥大化してきたのだろうか。その理由は、労働組合と会社との交渉過程にある。

企業が基本給を上げてこなかったツケ
本来、企業の労働者というのは、労働力を企業に提供する代わりに対価をもらうという関係であり、本人がどのような私生活を送っているのかについては賃金とは関係しない。従って組合と会社の交渉においても、基本給とボーナスがいくらなのかが焦点となるはずだが、企業は利益を最優先するので、当然のことながら基本給の昇給にはなかなか応じない。

 企業の社内規定にもよるが、基本給を上げてしまうと退職金の算定などにも影響するので、経営陣としてはできるだけ手を付けたくない。このため労使交渉では、手当の増額が落としどころになるケースも多く、これが手当を増やす原因となっていた。

 公務員にもこうした手当が多く、以前、失業者と接すると精神的なストレスが大きいとして、ハローワークの窓口業務に従事する職員に手当を支給していたことが問題視されたり、ある自治体で課長に昇進できない職員に対して手当を支給していることが批判されたりした事例があった。民間企業でも意味がよく分からない手当が支給されているケースは少なくないはずだ。

 本来であれば、こうした無意味な手当は廃止し、基本給として労働者に支払うべきだが、今となっては、これらの手当が格好の賃金削減策になろうとしている。公務員は民間とは正反対に、毎年、賃金が上がっているので大きな問題は起きないだろうが、民間企業の場合には、各種手当が逆に労働者の首を絞めることにもなりかねない。

 ちなみに20年4月からはサラリーマンの控除の基準の見直しも実施されるので、年収850万円以上の給与所得者は事実上、増税となる。一方で、消費者物価指数は上昇を続けており、1万円で買えるモノの量は、毎年、着実に減っている。支出の切り詰めには限度があるので、生活防衛の手段としては、やはり副業など収入を増やす方法を考えるしかないだろう。

加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)

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