第107回 性別データを公表しない「毎月勤労統計調査」に異議あり

(以下の文章を書いた後、厚生労働省の雇用統計課に問い合わせたところ、「毎月勤労統計調査」の月報にはここで問題にした性別データは公表されていないが、年報には公表されていることが判明しました。それを厚生労働省のホームページで読むのは一苦労ですが、厚労省の担当者に親切に教えていただいて見ることができました。月報にも性別データを載せてほしいという要望には変わりはありませんが、以下の文章には早とちりの部分があることをお断りします。2010年10月12日追記)

賃金と労働時間に関する基幹統計に厚労省「毎月勤労統計調査」(「毎勤」)があります。私は主に労働時間統計に関心があってよく「毎勤」を利用してきました。この統計は賃金と労働時間について連続的で時系列比較のできる網羅的な企業統計として有用ですが、かねてから二つの欠陥があると思ってきました。

その一つは、同調査は、事業所の賃金台帳に記載された賃金が支払われた労働時間を集計していて、男性の正社員に多い長時間の賃金不払残業(サービス残業)を把握していません。残業賃金の不払いは賃金不払いと割増賃金不払いの二重の罪ですから、企業がその記録を賃金台帳に残し、調査票に記載するということはふつう考えられません。とすれば、「毎勤」が賃金不払残業を把握していないという欠陥は、別に何らかの特別調査を実施するか、総務省「労働力調査」(「労調」)など他の政府統計によって補うしかないでしょう。

「毎勤」の第二の欠陥は、調査の目的である賃金、労働時間および雇用の変動の把握に関して不可欠な性別データを欠いていることです。「毎勤」では、男女計の数字は出ていますが、男性の賃金と女性の賃金がどれほど違うかはわかりません。労働時間についても同様です。

性別区分のある「労調」のデータでは、2009年の年間労働時間は、男性が2330時間、女性が1784時間で、約550時間の差があります。09年は08年秋以降のリーマン恐慌の影響でとくに男性の残業時間が減って男女差が縮まりましたが、05年をとると、ほとんど600時間の差がありました。

ところが「毎勤」では、男女計の平均が09年で年間1733間であったことはわかっても、男女の労働時間の差がいくらであったかはわかりません。

前回取り上げた国税庁「平成21年分民間給与実態統計調査結果」によれば、09年に民間の事業所に1年を通じて勤務した給与所得者の平均年間賃金(給料・手当+賞与)は男女計では429万6000円ですが、男性は532万5000円、女性は271万円で、男女間に261万5000もの格差があります。それが「毎勤」では男女込みで平均426万3000円(規模30人以上の一般労働者とパートタイム労働者)ということはわかっても、男女の賃金にどれだけ格差があるかはわかりません。

ところが、「毎勤」のもとになる調査票には性別の区分が設けられているのです。ということは賃金についても労働時間についても性別のデータはあるのに公表していないということです。これはどうしたことでしょうか。賃金や労働時間の性別データを知ることは国民の知る権利の一部です。そうであるだけに、私は厚労省にたとえば最近10年間の男女別の賃金と労働時間の数字について情報公開請求をしてみたいと思っています。その結果はまたお伝えします。

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