第159回 拙著『就職とは何か』に読者のあたたかい批評をいただいて

拙著『就職とは何か――〈まともな働き方〉の条件』(岩波新書)が出版されて2ヵ月近くになります。ありがたいことにいろんな方がブログなどに書評や紹介を書いてくださっています。正月の遊(すさ)びにそれらをざっと集めてみました。文章は長短さまざまですが、ワードの文字カウントで3万3500字ほどありました。休眠状態の「森岡孝二のホームページ」にアップしましたので、関心のある方は覗いてみてください。

Amazonにはいまのところ9本のレビューが出ています。星5つが6本、星4つが3本、おすすめ度は5つ星のうち4.7です。好意的な評価をいただいて嬉しく思います。アマゾンカスタマーレビューに最初に出たのは、Tomさんというハンドルネームの「労働局で労働基準法を中心とした労働関係法令の周知に係る仕事をしています」という人の投稿です。その道の専門の方に「森岡先生の著書を拝読し、まさにわが意を得たりの気持ちです」と言ってもらって、力づけられました。

ハンドルネーム「これでいいのだ」さんの内容紹介は、いささか持ち上げすぎながら、簡にして要を得ています。いわく、学生の就職、若者の就業、旧態依然とした日本の「働き過ぎ」の現状などに論点を絞った、明快な構成、分かりやすい筆致の新書。何より、印象論を避け、広範でフェアなデータをおびただしく引用・活用している点、さすがに企業社会論・労働時間論の第一人者らしい書きぶりだと思う。思わず手帳にメモしたくなるような数字も多数紹介されていた。また、若い学生たちに対し「社会常識」「基礎知識」「専門知識」と並んで「労働知識」を学ぶ重要性をアピールし、社会環境に対する「適応」だけでなく「抵抗」をも忘れないように、と要約できそうな主張は興味深い

この方の評価は4です。1点減点されているのは、拙著では「働くのが好き」で「働きバチ」になっている労働者も少数ながらも存在することへの理解が乏しいという評価に起因しているようです。言い訳になりますが、以前に著した『働きすぎの時代』(岩波新書、2005年)では、「自発的な働きすぎ」について不十分ながら1節(139〜142ページ)を設けて考察しています。

今回知ったのですが、ブログのなかには何人もの人が同じ本について次々とポストした数行の短評を、まとめて読めるようになっているものもあります。この種のブログで『就職とは何か』を取り上げてくれているものが気づいたかぎりで3つありました。そこに出ている短評の数は、1〜2行のメモを含めると30を超えます。

その種のグループ書評の一つである”booklog”のなかには、「今年読んだ本の中で、駄目本No.1になりそうなレベルだった」という手厳しいコメントもありました。同じ”booklog”には、「新書としては充実してる気がしました♪。—目からうろこの画期的な解決策や、これを読めば内定がとれる的な書物はないと思う。どんな書籍でも生かすも殺すも本人次第。この新書はちゃんと中身があるし、良書だと私は思う」と書いてくれる人もいて、救われます。

他方、驚くほど長いものもあって、千田孝之という方は8000字を超える本格的な書評を書いてくださっています。この方は私が終章で過労死予備軍と産業予備軍のあいだのワークシェアリングの必要を説いた箇所にコメントして、最後に次のように言います。

いわばサービス残業に相当する労働時間を、1000万人をこえる産業予備軍に「ワークシェアリング」することである。総労働量が変わらないかぎり、サービス残業をなくすれば400万人を超える雇用が生まれる。しかし産業界は減量経営で雇用者を減らし、現雇用者に無制限のただ働き労働を強要することで利益を上げてきた。企業にとってこんなうまい話はない。恐らく絶対に産業界は承服しないであろう。それなら日本から脱出すると言って脅しをかけるだろう。産業界にお願いしてできる相談でないならこれはもう革命である

ここを読んでウーンと唸るほど考えさせられました。著者としては改良の課題として書いたつもりですが、そう言われれば、ワークシェアリングは、サービス残業解消型のそれであっても、「時短革命」という名の革命の課題として取り組むべき容易ならざる課題であるのかもしれません。

 

追記:今回見たかぎりでは評者は学生よりもいわゆる社会人の方が多いようです。学生の感想については、私の   授業でレポートを課しましたので、後日取り上げることにします。

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