「毎日新聞」 リアル30’s:働いてる? 識者に聞く/中 首都圏青年ユニオン書記長・河添誠さん

「毎日新聞」2012年1月17日

 ◇人材育成、放棄した企業−−河添誠さん(47)
 
非正規雇用の増加は1990年代半ばに加速し、2000年代にさらに進みました。でも当時は不況のせいだと思われていた。「景気が回復すれば元に戻るよ」と。現実は違って、以前とは全く違う世界が眼前に現れている。
 
特にここ10年の最大の変化は、企業が人を育てなくなったこと。基幹産業ではまだ新人に職業的訓練を受けさせているが、多くの産業でそんな悠長なことができなくなった。派遣労働者や契約社員で、かつ技能を持つ人を、安いコストで期限付きで雇う。「人を育てる」という基本的な考えを放棄している。
 
その波は正社員にも及んでいる。使えるかどうか、働けるかどうかの判断がすごく速い。だから新卒切りや退職勧奨が増える。そこに優秀な非正規労働者をはめ込み、低賃金のまま正社員と同じきつい仕事をさせる例も多い。職を失うことへの恐怖からだれも企業にあらがえず、体や心を病んだり、過労死する人が出る。正規・非正規を問わず、30代が一人で背負うにはあまりにもひどく、きつい労働環境が日本を覆っている。
 
新卒で就職に失敗したり、いったん会社を辞め派遣やアルバイトを長く続けると、職業技能は身に着かない。だから転職も難しい。年齢が上がるほど門は狭まる。
 
30代は、単に仕事が見つからない以上のしんどさを抱え込んでいると思う。いつまでも一人前扱いされず、社会的存在として認知されない。カネがなく、恋人もおらず、結婚を望めない。排除された感覚を内面化してしまう。
 
これを「自己責任」に落とし込んではいけない。社会の構造変化が大きな要因だから。まともな仕事に就き、職業人として生きられるよう求めることは当然の権利です。私たちがそのことを理解し、彼らの職業技能を伸ばし、労働市場に入りやすい仕組みを作らないといけない。一番はやはり、公共職業訓練を充実させること、不安定な雇用を法律で規制することです。
 
みんな、がんばらなきゃいけないと思い込まされている。でも、人生にはがんばれない時もある。独りで悩まないで、いろいろな人と相談できる関係を作ってほしい。大変な時代だが絶望する必要はない。「みんなでつながって生きていこう」と言いたいですね。【聞き手・戸嶋誠司】
 
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