“使えない社員”解雇できる…韓国に衝撃走る 雇用不安あおる皮肉な事態に

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/160213/mcb1602131708001-n1.htm
SankeiBuz 2016.2.13

政府の方針に抗議し集会を開く労働組合員ら=ソウル(共同)省略
 
 韓国の労使対立が泥沼化の気配だ。働く能力が著しく低い社員を企業が解雇できる指針を政府が出したことに、労働組合側が激しく反発している。不興をかってでも、労働市場改革に乗り出す朴槿恵政権。深刻な若者の失業問題の改善を狙った施策だが、雇用不安をあおる皮肉な事態を生んでいる…。

 2つの指針に大騒ぎ

 韓国政府が1月22日に発表した労働改革の2つの指針に衝撃が走った。なにしろ、会社が従業員の働きの悪さを理由にくびを切ったり、賃金が頭打ちになったりすることにつながる「改革」だったからだ。

 従来、経営危機下での人員整理や不祥事による懲戒で認められていた解雇だが、人事評価で業務能力が著しく低いと判断され、教育訓練をしても改善しないような労働者を指針にそって、解雇可能な仕組みになった。

 さらに労働組合が協議を拒否した場合であっても、「社会通念上の合理性」によって、就業規則を変更できることが認められた。雇用を守る代わりに一定年齢から賃金を下げる「賃金ピーク制」の導入を後押ししたい政府の思惑がある。

 若者の失業率は過去最高

 韓国政府が労働市場改革を断行するのは、若者の就労環境が極めて悪くなっているからだ。

 日本総研の向山英彦上席主任研究員のレポートによると、若者の失業率は30〜54歳世代の3・5倍(2013年)にのぼり、格差は経済協力開発機構(OECD)調査対象22カ国・地域のうちで最も高い。

 若者の失業率悪化は、雇用の受け皿となっていた財閥企業が景気低迷や国際競争の激化の影響で、新卒採用を抑制していることが背景にある。

 2014年の韓国の若者(30歳未満)の失業率は統計方法を見直した1999年以降で最悪の9・2%に達している。

 政府には、指針に沿った賃金ピーク制の導入が広がれば、企業の人件費が浮いて若者の雇用創出につながるとの期待がある。

 例えば、韓国サムスン電子グループは、2016年に系列企業で賃金ピーク制度を導入。定年延長する代わりに56歳から給与を削減する一方、若年労働者3万人分の雇用を創出すると表明しているが、こうした取り組みをイメージしているようだ。

 また解雇要件の明確化により、成果主義的な賃金体系が強まり、生産性も向上。ルールが不透明なことで起きる労使紛争を減らす可能性もある。

 既に賃金ピークは「40代」?

 しかし、当然ながら労働組合の評判はすこぶる悪い。

 「2つの指針は、解雇を容易にし、労働法の改悪になる」。韓国・聯合ニュースは労働組合の全国組織にあたる韓国労働組合総連盟と民主労働組合総連盟の批判の声をこう伝えた。指針の公表に前後して、反対集会の呼びかけが各地で相次いだ。

 特権階級のように見える中高年労働者も、厳しい就労環境に置かれている。

 既に、韓国の賃金のピークは前倒しされ、40歳代で頭打ちになってきているとの試算もある。

 政府系・韓国労働研究院の発表を報じた聯合ニュースによると、「勤続1年未満」の労働者賃金を指数「100」とした場合、「30代」は「151・9」の水準。「40代」は「174・1」にまで上昇する。しかし、そこから降下して「50代」では「158・4」、「60歳以上」では「106・2」に下がる。

 一方、日本では、賃金の上昇がピークを迎えるのは50歳代(176・0)で、60歳以上になって119・4に落ち込む。欧州では60歳以上まで伸びが続く賃金カーブになっている。

 韓国ではリストラで早期退職者を募る大企業が増え、既に賃金ピークが「40代」にくる構図になっている可能性がある。

 韓国政府は、派遣労働の職種を広げる関連法案も国会に提出。労働市場改革を急いでいるが、職がない若者と中高年労働者の双方が納得する改革はあるのか。議論の行方は混とんとしている。

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