第208回 社会風刺の語句が一つも入らなかった今年の流行語トップテン

「流行語大賞」にみるかぎり、今年は流行語不作の年でした。そのことは社会風刺の力をもつ語句についてとくに言えます。

ここ10年ほどの流行語大賞トップテンをみると、「貸し剥がし」「内部告発」(2002)、「年収300万円」(2003)、「自己責任」(2004)、「富裕層」(2005)、「格差社会」(2006)、「ネットカフェ難民」(2007)、「名ばかり管理職」「蟹工船」「後期高齢者」(2008)、「派遣切り」(2009)、「無縁社会」(2010)、「帰宅難民」(2011)のような時代を映す新語・流行語が必ず上がっていました。それが今年はないのです。

しかし、トップテンに入って当然と思われるような流行語がなかったわけではありません。ネットの解説によると、トップテンは、『現代用語の基礎知識』読者アンケートを参考に、審査委員会がノミネート語を選出して決めるようです。私が審査委員なら、今年は「ブラック企業」、「いじめ」、「パワハラ」を候補に挙げたいと思います。

ブラック企業は大学生の就活難がかつてなく深刻化した2010年くらいから言われるようになった言葉です。今年流行りはじめたわけではないので今年のトップテンに入る資格がないとは言えません。2002年に挙がった「貸し剥がし」は「貸し渋り」とともに、金融危機が問題になった1997−98年頃にすでに言われていました。2008年に挙がっている「名ばかり管理職」が流行ったのはその前年の2007年でした。

私が「ブラック企業」を今年の社会風刺流行語に推すのは、今年は「ブラック企業大賞」が設けられるほど、新卒まもない若者の違法な働かされ方/辞めさせられ方が大きな社会問題になったからです。POSSE代表の今野晴貴さんが著した『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)は、実に多くの若者の労働相談をもとに今日の職場の実態を暴いて話題を呼んでいます。

「いじめ」では大津市の中学生の自殺事件が大きなニュースになりました。この事件にかぎらず、小中学校のいじめが問題になるほどには、職場の「いじめ」「パワハラ」は報道されていません。パワハラは2001年にパワーハラスメントから造られた和製英語で、新語とはとうてい言えませんが、今年は3月に厚生労働省のワーキンググループが「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」を取りまとめ発表しました。また12月には同省の委託で「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」の報告書が出ました。こういう状況を考えると、「いじめ」や「パワハラ」が今年の流行語にノミネートされても不自然ではありません。

2006年から流行りはじめた「ワーキングプア」は、2007年の流行語トップテンの候補語に挙がりながら、本選では入りませんでした。そういう例もあることをそう考えると、今年の結果はとやかくいうほどのことではないのかもしれません。それにしても、世相を衝くことを使命とする流行語トップテンに今年は社会風刺の語句が一つもなかったというのはやはり納得がいきません。

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