第194回 誘導質問をしても、回答者は正直に働き方の不満と生活の不安を訴えています

今回も前回に引き続き8月30日に厚労省が発表した2010年「社会保障を支える世代に関する意識等調査報告書」を取り上げます。長文をお許しください。

本調査の質問の仕方にはいくつか疑問があります。次の質問もその1例です。

「あなたの理想とする就業時間は、あなたの今の就業時間に比べてどうですか。 
1.所得が減っても現在の就業時間よりも短い方がよい 
2.所得が増えるならば現在の就業時間よりも長い方がよい 
3.現在の就業時間でよい 

こうした訊き方では、所得が減るのも困る、労働時間が増えるのも困ると考える人が多いでしょうから、回答は「現在の就業時間でよい」が多数になるのは目に見えています。事実、「理想とする就業時間」の回答は、「現在の就業時間でよい」が54.0%と最も多くなっています。

でも、事実は隠せません。本調査によれば、就学前の子どものいる男性が平日の子ども接する時間は平均でも2時間01分と短いのですが、注目されるのは接触時間が1時間未満しかない人が23.8%もいることです。この数字は、子育て中の父親がいかに働きすぎであるかを示しています。

また、本調査は正規労働者(正社員・正職員)と非正規労働者(パート・アリバイト・派遣など) とを区別せずに、「理想とする就業時間」を訊いています。。しかし、これでは理想も現実も把握できません。できれば正社員として働きたいパートタイム労働者は、「所得が増えるならば現在の就業時間よりも長くてもよい」と考えるでしょうが、これをもって正社員がそう考えているみなすことはできません。

本調査には「就業就業など生活状況」という項目の中で「理想とする働き方や労働条件」についての質問もあります。その回答を高い順に5位まで示すと、次のようになっています。

表1 理想とする働き方や労働条件(複数回答 3つまで)     (単位:%)
 
定年まで雇用が確保されている                                             41.6
老後の所得保障として退職金や企業年金が充実している          34.9
有給休暇が取得しやすい環境である                                     31.8
残業がなく、定時どおりに帰宅しやすい環境である                      29.7
育児休業が取得しやすいなど、子育てと両立しやすい環境である 18.4
 
質問票のこの箇所を見ると選択肢のトップは「成果主義的な賃金体系の下で働きたい」、2番目は 「年功主義的な賃金体系の下で働きたい」、3番目は「自分の能力やキャリアなどに応じて転職が出来る」です。こうした質問の仕方は誘導的で、「成果主義」や「転職」を肯定する回答を多くしようとする意図が見え透いています。しかし、結果を見ると、質問の上位3つは、回答の上位5つには含まれておらず、誘導には失敗しています。

小細工を弄しても、調査結果は、国民の生活が苦しい状況を反映しています。たとえば、税や社会保険料の負担については、「生活にはあまり影響しないが負担感がある」が46.5%と、「生活が苦しくなるほど重い」が42.7%を合わせると、9割の人が負担感があると答えています。20 歳代では「生活が苦しくなるほど重い」が42.3%で最も多く、次いで「生活にはあまり影響しないが負担感がある」が41.3%となっていて、4割強が生活の苦しさを訴えています。

本調査は社会保障と税負担の関係についても訊いています。民自公3党合意は、社会保障の給付水準を下げ、税負担を上げるというものですが、この項目の質問にはそうした選択肢はありません。あれば最下位間違いなしです。実際にあるのは、社会保障の維持・拡充と増税のセットか、社会保障の大幅引き下げと税負担の軽減のセットのいずれかの選択だけです。

この調査結果を見ると、人々にとって、働き方は望ましい状態にはほど遠く、社会保障は自分と家族の生活を支えてくれるものないことがわかります。そのことは「将来への不安」についての質問の回答結果をみれば一目瞭然です(回答は高い順に5位までを示しました)。
 
表2 将来への不安 (複数回答 3つまで)                (単位:%) 

公的年金が老後生活に十分であるかどうか               73.5
あなた又はあなたの親の医療や介護が必要になり、 その    45.0 
      負担が増大してしまうのではないか

給料や諸手当の減額が行われるのではないか                  25.3
企業年金や退職金が減額、廃止されるのではないか           23.8
子育てや子どもの教育にお金がかかり、生活が苦しくなる   21.5
   のではないか

 

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