時給762円 最低賃金が上がればダブルワークしなくてすむのに… (7/25)

時給762円 最低賃金が上がればダブルワークしなくてすむのに…

 
NHK Web News 2019年7月25日 19時28分
 
時給762円。最低賃金より1円高いだけ。パートで働く女性の月給は手取りで7万円から8万円です。「最低賃金がもっと上がればダブルワークをしなくてすむのに」。女性は早朝のアルバイトとパートの2つの仕事を掛け持ちしています。働く人たちの安定した生活のために期待される最低賃金の引き上げ。全国で最も最低賃金が低い鹿児島県で取材しました。(鹿児島放送局記者 野依環介)
 
パートは時給762円
 
〔写真〕https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190725/K10012008401_1907251748_1907251749_01_03.jpg
 
鹿児島市に住む坂元智子さん(65/仮名)。坂元さんは食品や衣料品などを扱う地元のスーパーでパート従業員としておよそ30年間、働き続けています。
 
5年前の60歳で定年退職。ただ、仕事を辞めても年金は支給されずいっさいの収入は途絶えます。
 
日々の生活のために同じスーパーで働き続けることを希望し再雇用されました。しかし、職能給などの加算分はすべてリセット。
 
現在の時給は最低賃金から1円高い“762円”です。勤務は午後0時半から8時半までの1日7時間(休憩1時間)、週5日働き、ひと月の総支給額は10万円から12万円程度。税金などを差し引けばこの仕事で手元に残るのは毎月、7万円から8万円程度だといいます。
 
「収入はやっぱり少ないと思います。今後、安心して生活できるように貯金をしたくてもできない」
 
早朝4時から3時間 弁当屋でアルバイトも
 
坂元さんは67歳の夫と2人暮らし。夫は10年前に脳出血で倒れたため、文具関係の自営業の仕事を辞めざるをえませんでした。また、2人の子どもは就職や結婚で離れて暮らしています。
 
このため坂元さんは“ダブルワーク”を決断。早朝4時から3時間、パートの仕事が始まるまで自宅近くの弁当屋で働いています。
 
このアルバイトの収入は毎月、手取りで5万円から6万円。時給に換算すると760円台で最低賃金とほぼ同じだということです。
 
2つの仕事を掛け持ちすることでなんとか、生活をやりくりしてきたといいます。
 
坂元さんは先月、65歳になりました。年金は1か月、6万円ほど。ダブルワークと年金で月の手取りの収入はおよそ20万円になりますが、それでも生活には余裕がないのが現状です。
 
切り詰める生活費 増える医療費の負担
 
〔イメージ〕https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190725/K10012008401_1907251717_1907251735_01_03.jpg
 
坂元さんの自宅は6畳と4畳半の2間がある県営住宅で、家賃は2万5000円。2人分の食費は月4万円。電気やガスなどの光熱費。さらには通勤で使う自動車のガソリン代。出費をできるだけおさえています。
 
「洋服は姉や友人からもらったものばかり。テレビももらったりしました。この年になると、友人も亡くなったりするんだけど葬儀への交通費も娘夫婦に出してもらったり。車も古いものに乗ってるから故障するんだけど息子の友人に修理費用を安くしてもらったり…周りに支えてもらっているからなんとか暮らせています」
その一方で病院に通院する機会が増え医療費の負担が重くなっています。坂元さんは両目が白内障と診断されことし2月に手術。さらにことし5月、夫が脳梗塞で倒れて病院に入院。現在は退院しましたが、リハビリを続けています。貯金はほとんどありません。
 
「仕事があるだけありがたいと思いますが、もう少し最低賃金が上がってくれれば暮らしも楽になりますし、ダブルワークをしなくてすむのにと思います。65歳にもなるとほかの仕事をしたくてもできないので今の仕事を続けるしかありません。一生懸命働いても生活には余裕がないので厳しいです」
 
必要な時給は「1584円」の試算
 
〔写真〕https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190725/K10012008401_1907251718_1907251735_01_04.jpg
 
鹿児島県内の労働団体が先月、鹿児島市内で1人暮らしをする際に必要な費用を試算し公表しました。
 
調査では県内で働く組合員などを対象にアンケートを行い、1人暮らしをしている10代から30代の158人の生活費などについてまとめました。
 
その結果、食費や家賃などの生活費に加え、友人に会うなどの娯楽費2万円余りなども含めて憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を送るために必要な生活費は1か月で23万7558円となりました。
 
週に5日で1日8時間勤務し月に150時間働くとすると、この金額を得るには時給で1584円となり、現在の鹿児島県の最低賃金761円とは大きな開きがあると指摘しています。
 
鹿児島県労連の福丸裕子議長は「物価はどこも変わらないのに鹿児島県の最低賃金は低すぎる。数字に確信が持てたので最低賃金の引き上げだけでなく中小企業の支援も働きかけていきたい」と話しています。
 
年間47万円の差
 
〔図〕https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190725/K10012008401_1907251717_1907251735_01_05.jpg
 
都市圏と地方の間での最低賃金の差は年々、拡大しています。最低賃金の最も高い東京の985円に対して、最も低い鹿児島は761円。実に224円の差があり、同じ仕事でも、1日8時間・週休2日で働いて、1か月で3万9000円、年間47万円の差が出ます。
 
〔グラフ〕https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190725/K10012008401_1907251717_1907251735_01_06.jpg
 
最低賃金は生活水準や、企業の支払い能力などを元に決められ、最高と最低の地域間格差は、2006年には109円でしたが、この10年余りでおよそ2倍に広がりました。最低賃金の全国平均は時給874円。
 
厚生労働省の審議会が今年度に最低賃金をどれだけ引き上げるかを議論していて、近く、引き上げ額の目安が示される見通しです。政府が、より早期に平均で時給1000円に引き上げるという目標を掲げる中、大幅な引き上げが認められるかどうかが焦点となっています。
 
この「最低賃金」について私たちは取材を続けていきたいと考えています。読んでいただいたみなさまからの情報提供をお待ちしています。
 
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